患者の声
当事者委員としての私の思い 聞き取りの現場に立ち会って 恩寵と鎮魂 みんな頑張ってますね!
社会参加への一歩 血友病という疾患 語り手として、聞き手として 生きなおすことと医師のモラル
『「生きなおす」ということ』
聞き取りの現場に立ち会って
前川 優
まず私が今回、生活実態インタビュー調査に同席したケースから振り返ります。
同席したのは3人の語り手で、年齢は30歳代、40歳代、50歳代の方でした。
30代の語り手の方は、私自身と同年代の方で凄く共感出来る事が多かったのが印象に残っています。色々なハンディキャップを背負いながらも、自分なりに人生を切り開いていくぞ!っていう気持ちを持ったアクティブな方でした。
お見合い登録をして結婚相手を相談所で探したり、
C:結局、(いろいろなハンディキャップを)背負ってるので、なかなか普通に見つけるのが難しいのが現状でして、このままでは結婚が難しいと思ったので、普通にお見合い登録をして出会いました。(語り手10)
子どもをもうけることによる感染リスクを最小限にするために体外受精に取り組んだり、
C:そうですね、今ちょっと活動しつつあります。結局のところ、自然妊娠はリスクがかなり高いため、最悪の事態を考えるとそれはしたくないので、リスクを回避できる体外受精という形で活動を始めてる所です。妻には、精神的にも身体的にも大分負担がかかっていると思います。(語り手10)
仕事場でも自分なりの仕事環境を改善し、自分の人生は自分で切り拓いていくという攻めの姿勢がある方でした。
C:はい、[体の]調子のいい時は[仕事が]できるから問題なくできるんですけど、調子の悪い時ってやっぱあるじゃないですか。調子が悪くても[職場の人には]“やったらできるはずだ”って言われるんです。やっぱり普通の人には分からないんでしょうね。(病気に対して)なかなか理解が得られないんで、周りに聞く耳を持ってもらえるように頑張ってやってたんですけど、体調的に、にっちもさっちも行かなくなってしまって、とうとう僕の方が怒ってしまって…。産業医と健康管理者を引っ張り出して、だいぶガチャガチャやったんです。(語り手10)
この30代の方へのインタビューへは、私自身は相談員の立場で同席したにもかかわらず、語り手から凄く勇気を貰い自分も頑張ろうと意欲が湧いてきました。
40代の語り手の方は、血液製剤の切り替わる時期の体験、遺言書作成の経験をお持ちの方でした。
非加熱製剤から加熱製剤へ、
C:本数もだいぶ注射してたしー、途中で薬のメーカーも変えちゃったしー、で一番最初に聞いたのが‘笑っていいとも’でタモリがなんかアメリカで奇病が流行っているらしいっていうのを言ってて、(中略)ちょうどコーエイトの出た頃。コーエイトがでて…しばらくコンコエイトからコーエイトに変わって、病院が変わって。自己注の訓練をして、(語り手2)
とても貴重な切り替わり時期の事をお聞きできました。
「遺書」の事、
C: いやもう、ターミナルのことはね、ずっと考えている。
**: 考えているんですか。備えがあるんですか。
C: ええ。
**: 棺桶とか[のお話が]出てくるんで。
C: もう15歳の頃から遺書はずっと書いてたんで。
(中略)
C: まあ公開はされないやろうけど、僕の遺言としてこういうのがあったんですよっていうのを調書に載せておきたかったんで。
**: そうですね。調書はちゃんととってもらうから。
C: ええ。とってもらうんで。
**: そういうところでずっと書いてあって。
私が告知されたのは、20歳前後で色々と治療状況も良くなり始めた時で、遺言書なんて考えた事がなかったので、とても印象に残る語り手でした。
50歳代の語り手の方は、私自身の年齢より20歳位年上の方で、膝と股関節に障害があり、普段は杖をついている方で、時代背景として医療の格差の事に関しては今では考えられないような色々な経験をお持ちの方でした。
C:それは二十歳のころの話でね、僕の子ども時代のことってなると、それはそれはまた大変な闘病者としての生活だったかなっていう。
**:そうなんですか、どんな感じだったんですか?
C: まぁ前回も言ったかもしれないですけども、
**:前聞いたのは、その[欠席が多くて学校の]成績がつかなかった、ですとか。
C:っていうぐらい休んでしまった。で、その医学治療レベルって言うのが、今のその血液製剤の水準から比べると、もう全然そのお話にならないぐらい。車と自転車((笑い))よりもひどい差があるって言うぐらい。輸血をする対処療法しかないという。
C:もちろん、それはねぇ。もう親としてはそういう風になってほしくないからって言う制限も言われたこともあるし。で、父親の血液だけでは賄いきれないから、とりあえずその頃、今はもう封鎖って言うか、廃業してしまったんですけど、個人の開業医さんがあって、そこの開業医さんにたくさん看護師さんがおられて、10人近くおられたのかな。その看護師さんらが、たまたま半分近くぐらいO型の看護師さんだって。で、まぁ順番順番に[血液を]貰って。うん。だから、ちょっとここの額なんかを切ったり、見えるような大きな出血したような時には、親戚のおじさん、おばさんからこう、輸血、血液提供してもらったりして。まぁそれはそれは大変な(笑い)。だから、今のその自己コントロールができて、自分で自己投与してって言う、そんな地点から見ると全然想像もつかない。(語り手12)
このような語りは、今の濃縮製剤がある時代からすれば想像もつかない事でした。やはり、年上の方のお話は重みがあり考えさせられました。
最後に、このインタビュー調査でもあるように30、40代は、恋愛ではいつ、どのようなタイミングでカミングアウトするか?を結構悩んでいる方が多いと感じました。
その後の、結婚となるとさらにハードルが上がり、子どもをもうける場合のHIV感染リスクを避けての体外受精や血友病保因者の問題、より一層の各個人の体調問題(インターフェロンの副作用やHAARTでの副作用など)のさまざまな問題が出てきます。
私も現在30代で同じような事を日々悩んでいます。
キーワードとしては、恋愛・一人暮らし・体調問題(インターフェロン・HAARTの副作用等)そして今は余り考えていませんいが、結婚・子どもの有無・高齢になっていく両親の介護問題等です。
研究者の原稿の中でも、30代、40代の恋愛・結婚・子どもの有無・高齢になっていく両親の介護問題に触れられている部分があり、皆考えている事は一緒なんだんなぁと思いました。
また同時に自分の中で、これほどこの薬害HIVの被害者の問題が如実に文章になっているのを見て、この先の、自分が通るであろう道を、少し覗き込んだ感じがして恐怖?焦り?みたいな物を多少感じました。
今回は生活実態調査に参加させて頂きまして、ありがとうございました。