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患者の声

 

   当事者委員としての私の思い   聞き取りの現場に立ち会って   恩寵と鎮魂   みんな頑張ってますね!

    ―序文にかえて―

   社会参加への一歩    血友病という疾患    語り手として、聞き手として   生きなおすことと医師のモラル

   

 『「生きなおす」ということ』

社会参加への一歩

前田 敦

 今回、この調査に当事者委員として参加する事になり、困難に立ち向かいながらも乗り越え続けてきた患者達の過去、そして今の生活のありように接することとなった。彼らの語りは、内容によっては私自身の経験と重ね合わさり、自身の人生を振り返り、見つめ直す作業を伴った。
 国内の加熱処理された濃縮血液凝固因子製剤の導入は1985年である。すなわち、我々はHIV感染から少なくとも四半世紀以上経過した事になる。今回の調査で語り手となった多くの患者は、人生の半分以上、または人生全てをHIVとそれに起因する肉体的・精神的負荷と共に歩んできた事になる。彼らは、過去をどの様に考え、今を過ごし、今後どの様な人生を描こうとしているのか。
 薬害HIV感染被害患者を対象とした調査は過去にも実施された。今回の新規性は、患者個々人の生活環境や人間関係、人生観に踏み込んだ内容のインタビューを患者の語りのペースで行うことによって、患者の実相をより深く捉える点にある。そして、彼らが今抱えている課題を通して、原告団の患者支援としての相談事業の今後の展開につながる知見や示唆を得る事を目的としている。
 今回の調査結果では、極めて厳しい人生を余儀なくされながらも、それにただ流されることなく、現実を正視し、前向きに生きていこうとしている患者達の存在に特に注目したい。私は、彼らの強さの源泉を社会との接点の強弱や頻度、その姿勢や態度に関係付けたい。ここでの社会との接点とは、就労やボランティア活動、社会活動全般への参加を指す。それを通して、日々の充実感や生きがいを栄養素として彼らの背中を押しているパワーとなっている事は容易に想像がつく。ここで、患者支援のポイントの一つとして、患者の社会参加への支援やそのための環境整備が挙げられよう。
 現実問題としては、社会参加の意思はありながらも、体調面や関節障害などの身体的理由、HIVによる偏見差別の危惧等、様々な理由で社会参加に向けた行動に移せない患者が多い。そこで、その敷居の高さの緩和を期待するものとして、今実際に社会参加している患者達へのアンケートや聞き取りを通じて、彼らの意識や経験、成功談や失敗談を集めた資料の作成を提案したい。その内容の具体例としては、就労先や同僚への病状の開示をどのタイミングでどの内容まで伝えたかや、プライバシーを守るための工夫等であり、対象者自身のコメントを交えた記述があれば良いだろう。この様な情報を共有することで、社会参加を希望する患者が実際に遭遇するであろう状況のケーススタディや社会参加に向けた各人の戦略戦術の構想、また社会参加後の自身のイメージも描きやすくなるのではないかと考える。

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