患者の声
当事者委員としての私の思い 聞き取りの現場に立ち会って 恩寵と鎮魂 みんな頑張ってますね!
―序文にかえて―
社会参加への一歩 血友病という疾患 語り手として、聞き手として 生きなおすことと医師のモラル
『「生きなおす」ということ』
『「生きなおす』ということ』は、国がHIV訴訟原告団に委託してきた「薬害エイズ被害者遺族等相談事業」の一環として、「患者・家族調査研究委員会」(委員長・伊藤 美樹子 大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻 准教授【当時】)が、2009年より3ヵ年にわたって行なった血友病患者・家族を対象とする調査研究の報告書です。
この調査研究は、社会学研究者と保健学・看護学研究者、そして遺族等相談事業に関わる患者担当相談員が共同で実施しました。インタビュー調査から得られた語りをもとに論考が進められており、血友病という体質を持って生まれ、加えてHIV感染から約30年、病いと共に生きてきた語り手の経験、生き方・人生観・死生観などが籠められています。
ここでは、報告書「第2部:当事者委員の受け止めたこと」から一部を御紹介します。
*非営利活動法人 ネットワーク医療と人権<MERS>による『「生きなおす」ということ』の紹介ページ
当事者委員としての私の思い
―序文にかえて―
小山 昇孝
2004年から2006年にかけて「薬害HIV感染被害者(患者・家族)への面接調査報告」と「薬害HIV感染患者とその家族への質問紙調査報告書」がまとめられたが、私も当事者委員の一員として報告書作成に加わらせて頂く機会に恵まれた。
父親や母親などご家族の聞き取り調査に立ち会わせて頂く体験をして、親の子に対する思いの大きさを実感することが出来た。
本調査においても、再度、当事者委員として参加させて頂いたが、前回とは全く違う初めての経験をした。
それは、調査に協力頂いたすべての方々のトランスクリプト(1)を読ませて頂くことであった。
その作業をしなければならないことはわかっていたのであるが、いざ、トランスクリプトを読む段階になって、「これは困った」と今さらながら、私は、戸惑ってしまった。そのあたりの心境を書きとめておきたい。
研究者1、2名と当事者相談員1、2名でチームを組み、薬害HIV感染者17名とHIV非感染血友病患者3名併せて20名方々にインタビューを行ったが、途中で体調不良や拒否により2名が辞退された。
語って頂いた内容は家族構成から始まって、家族との関係・生い立ち・趣味のこと・病気のこと・本人自身の周囲の環境・就労先での仕事の悩みや対人関係の悩み・異性への思いなど多岐にわたるものであった。
その中には、「妻の親に結婚を反対されたため、妻と添い遂げるために自分自身が他の人物になって結婚した」、「和解金で新車を複数購入し、飲食代等に使い果たした。」「遅れて医師から感染の告知を受けた後、以前に付き合っていた女性の感染のことが気になり、女性に伝えて非難された」、「自分の妻のことを姉に批判されて姉弟の縁が遠くなった。」「感染したことで子どもをあきらめてしまった」など、なかなか他人に話さないことまで赤裸々に語って頂いた。
そのようなことを語って頂けたのは、私たちを信頼して下さったこともあるだろうし、少しでも研究に役立ててもらえればという善意の気持ちがあるからでもあろう。
トランスクリプトは、語り手の言葉が一句一句書き込まれていて、その文字を読み込むとその人の背景も含めて全体像が鮮明になってくる。そして、生き抜いてきた半生を身近にひしひしと感じた。
当事者委員がインタビューに立ち会った語り手のトランスクリプトを読むことについては納得できる。しかし、当事者委員ということで、インタビューに立ち会っていない語り手のトランスクリプトを読んで良いものなのかと複雑な気持ちを抱いてしまったのである。もし、私がインタビューに応じた立場だったらどうだったろうかとも考えてしまった。
そのような気持ちを持ちつつ、私はこの調査に参加し、この報告書をまとめてきたということを理解して頂ければと思う。
勿論、きちんとした手続きに沿って実施していることと守秘義務の厳守については言うまでもないことである。
本調査では、新たな課題として、年老いていく親の介護や自身の高齢化による老後の生活の不安も見えてきた。
今回、困っていることや日ごろの考えなどについて語ってもらったことを、相談事業に反映させていく目的で生活実態調査を実施してきた。本報告書で示唆されていることについて、今後、その手立てを探っていく必要性を感じる。協力して頂いた方々のご厚意を無駄にしたくはない。
インタビューに応じて下さった20名の方々に深く感謝いたします。本当にありがとうございました。
補注
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トランスクリプトとは「話し言葉の分析をするためにその音声を文字に起こした資料」のこと。